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時事問題

「放送法文書問題」ってなんなん?

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放送法の政治的公平性をめぐる行政文書問題。当時総務省だった高市早苗経済安全保障担当相が「捏造」だと発言したことで問題が大きくなり、波紋が広がっています。

「放送法」とは、日本のテレビやラジオの放送のあり方について定めた法律です。
戦争中、政府や軍部によってメディアが管理されたことを反省し、政府が番組の内容に干渉しないようにするために制定されました。所管官庁は総務省です。

放送法は第四条で、放送事業者に対して「政治的に公平であること」を求めています。
政府はながらく、放送番組が政治的に公平かどうか、その局が放送する番組全体を見て判断するという立場でした。

しかし2015年5月、高市早苗総務大臣(当時)は、国会で「ひとつの番組だけを見て判断することがある」と、放送法に対して新しい解釈を追加する答弁を行いました。

その内幕がわかる内部資料を入手したとして、立憲民主党の小西洋之参院議員が80ページ分の文書を3月2日に公開しました。
この文書は「総務省職員に託された」といいます。
これについて参院予算委員会で答弁を求められた高市氏は、文書を「捏造だ」とし、「捏造でなければ閣僚や議員を辞職する」とたんかを切りました。

文書の内容

文書には、首相官邸からの働きかけでこの解釈の追加にいたる過程が記されています。
きっかけは2014年11月、当時の礒崎陽輔首相補佐官が「政治的公平性についてレクしてほしい」と総務省に働きかけてきたことでした。

レクは11月28日に実施され、これ以降、磯崎さんと総務省はやりとりを重ねていきます。
2015年1月には高市早苗総務相へのレクが行われました。

総務省出身の山田真貴子首相秘書官は、磯崎さんと総務省が進める放送法の新解釈について、本来なら審議会の開催や法改正が必要で「放送法の根幹に関わる」と指摘。磯崎氏を念頭に「変なヤクザに絡まれたって話ではないか」「どこのメディアも萎縮するだろう。言論弾圧ではないか」と発言したとされます。

2月、総務省の局長が磯崎さんに「菅義偉官房長官にも話をしてはどうか」と提案。すると磯崎さんは
「局長ごときが言う話ではない」
「この県は俺と総理が2人で決める話」
「俺の顔をつぶすようなことになればただじゃすまないぞ。首が飛ぶぞ」
とのべたとされています。

3月には磯崎さんや山田さんが安倍晋三首相に政治的公平性について説明。安倍さんは「政治的公平性という観点からみて、現在の放送番組にはおかしいものもあり、こうした現状は正すべき」と述べました。

そして5月12日の参院総務委員会で高市さんが「1つの番組でも、極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」などと答弁するにいたったのです。

総務省は行政文書と認定

総務省は3月7日、この内部資料について、すべて総務省の行政文書だと認めました。

岸田政権は行政文書の存在を認める一方、放送行政への影響はないという見方を示して問題をかわす姿勢でした。
ですが、政権の思惑を知ってか知らずか、高市さんは行政文書を「捏造」「怪文書」などとして内容を否定し続けています。結果、野党の強い批判を呼び込んでしまい、与党内では困惑の声が広がっています。

そして暴走へ

高市さんは予算委で「磯崎氏が放送行政に興味を持っていると知ったのは(文書の内容を知った)この3月」と反論。
2015年2月と3月に総務省の局長からレクを受けたことされることについては、9日の衆院本会議でも「レクを受けたことはない」と否定しました。
総務省側は3月13日の参院予算委員会で、レクは「あった可能性が高い」との見解を示しています。

3月17日、総務省は関係者への聞き取り結果を新たに公表しました。それによると礒崎さんは「お互いに案を出し合って議論していた記憶はある」と述べています。

行政文書をめぐる質疑で、立憲民主党の杉尾秀哉氏から行政文書を捏造とする根拠を説明するよう求められた高市さんは「信用できないなら、もう質問しないで」と答弁。これは後に答弁のみ撤回しましたが謝罪には応じませんでした。

高市さんは文書を「捏造」だと主張し、文書が捏造でなければ辞任すると発言しましたが、その後は苦しい言い訳を続けており、おそらく辞任することはないでしょう。
政権や官僚らには困惑が広がり、今回の件で今後は文書を残さない風潮が広がるのではとの懸念も出ています。

小西議員は不適切発言で更迭

この問題を取り上げ、政権側への追求を強めていた立憲民主党の小西洋之参院議員は、3月29日、衆院憲法審査会が毎週開かれていることについて「毎週開催はサルがやることだ」と発言。
直後に「人にサルはいけないですね」と撤回したものの、発言の前半だけをフジテレビが放送したことから「(フジテレビを)放送法違反でBPO(放送倫理・番組向上機構)に告発できる」「元放送政策課課長補佐に喧嘩を売るとはいい度胸だ」など、フジテレビを威圧する発信をTwitterで繰り返しました。

一連の発言をめぐり、与野党から厳しい意見が出され、これを重く見た立憲民主党の泉健太代表は、小西議員を参院憲法審の野党筆頭理事から更迭しました。
小西議員自身が報道機関への政治の圧力を追求していたのに、結局どっちもどっちなのか…